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仙台高等裁判所 昭和50年(く)16号 決定

少年 H・G(昭三三・八・二四生)

主文

原決定を取り消す。

本件を盛岡家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨は、少年の法定代理人親権者父H・Z名義の抗告申立書に記載されたとおりであり、所論は要するに、少年を中等少年院へ送致した原決定の処分は著るしく不当であるというのである。

そこで、所論に対する判断をするに先だち、職権を以て原決定の当否を検討するに、少年審判規則三六条が、「罪を犯した少年の事件について保護処分の決定をするには、罪となるべき事実及びその事実に適用すべき法令を示さなければならない」と規定するとともに、少年法四六条本文が、「罪を犯した少年に対して保護処分がなされたときは、審判を経た事件について、刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することができない。」として、一事不再理の原則を規定している法意と、同条にいう「審判を経た事件」とは、保護処分の対象となつた決定書記載の犯罪事実のみを指称すると解されている(最高裁第二小法廷昭三六年九月二〇日決定・刑集一五巻八号一五〇一頁参照)ことに鑑みると、保護処分に付する決定書に記載されるべき犯罪事実が二個以上ある場合には、そのすべてを適用法令とともに記載し、もつて保護処分の対象となる非行事実を明示すると同時に、同条による一事不再理の効力の及ぶべき範囲を明確にすべきであり、たとえ右犯罪事実中の一個の記載が遺脱されたにすぎず、決定主文に記載された保護処分の内容そのものは支持できるとしても、右瑕疵は、同法三二条にいう「決定に影響を及ぼす法令の違反」にあたると解するのが相当である(東京高裁昭和四六年七月六日決定・高裁刑集二四巻三号四五二頁参照)。

これを本件についてみるに、記録によれば、原審は昭和五〇年五月七日の審判期日において、少年に対する原審昭和五〇年少第三四三号窃盗保護事件に、昭和四九年少第一〇六五号窃盗、傷害保護事件、同年少第一二八二号強制わいせつ保護事件、昭和五〇年少第三二〇号窃盗保護事件並びに同年少第三九二号窃盗保護事件を併合し、上記各保護事件につき検察官から送致された犯罪事実(窃盗二九回、傷害一回、強制わいせつ一回)を、いずれも少年の面前で逐一読み上げてその陳述を聴いた上で、少年を中等少年院に送致する旨の決定を告知しているが、原決定書には、非行事実として、本件各送致事実中前記昭和五〇年少第三九二号窃盗保護事件につき検察官の送致書に引用された司法警察員の昭和五〇年四月二五日付追送致書別紙犯罪事実(三)の「少年は昭和五〇年三月三一日午後一〇時三〇分頃北上市○○町×丁目×番××号○方○方三階子供部屋において、○方○子所有の現金二、〇〇〇円及び小銭入財布一個(時価五〇〇円相当)を窃取した」という事実を除くその余の事実及びこれに対する適用法令の記載があるにもかかわらず、右窃盗の事実及びこれに対する適用法令の摘示を遺脱したことが認められる。しかし、右事実についても○方○作成の被害届、並びに少年の自白などにより証明が十分であり、これをその余の本件各送致事実と区別して保護処分の対象から除外しなければならない理由は全く認められないことが、記録上明らかである(原審が右事実について、とくに不処分決定をした形跡は見当らない。)。

してみると、原審は、本件につき検察官送致の事実全部を保護処分の対象としたものとみられるのに、原決定書においては、前記窃盗の事実及びこれに対する適用法令の記載を遺脱したものであり、右は少年法三二条の「決定に影響を及ぼす法令の違反」に該当することは、上叙のとおりであるから、原決定は、論旨についての判断をなすまでもなく、取消をまぬがれない。

よつて、本件抗告は結局理由があるので、同法三三条二項により原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 菅間英男 裁判官 林田益太郎 鈴木健嗣朗)

〔編注〕 受移送審決定(盛岡家 昭五〇(少)五九九号 昭五〇・七・二一決定中等少年院送致)

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